擬音士あらわる!

漫画家や小説家が自分の表現に行き詰まりを感じたときに敲く門がある。華々しい文壇(やコミケ)とはほど遠い、人里離れた場所に、その庵はひっそりと佇んでいる。そこには夜な夜な悩み抜き精根尽き果て青白い顔をした作家たちが—ときにははるばる海外からも—ある男を訪ねてくるのだ。その男、擬音士。

ある若手作家は「これから連載する作品では四次元的な描写をするつもりですが、仮面をかぶって永遠の生命と無限の力を手に入れた敵の発する声が思い浮かばない」と言う。擬音士は立ち上がり、庭のししおどしを眺めながら数分ほど考えた後、「ウリリリリリリリリイイイイイイイイィィィィィィィィ!!!!」と奇声を発した。「これさえあれば、『オラオラオラ!』など、他の登場人物の声も簡単な応用で考えられるだろう」と静かに言った。

ある外国の作家は「特攻野郎Aチーム」のDVDを持ち込んで、「私ノ作品ニモ、コノ爆発音ガ欲シイノデース」と言うのだった。擬音士は「音を聞いていながらなぜ表現できんのだ、それでもアメコミ作家か!」と一括したのち「・・・この爆発音にはKABOOMがふさわしい。KAで灼熱の白光を、BOOMで爆発の地響きを表現しておる。Oを増やすことで残響音も表現が可能だ。」と告げたのだった。依頼主の外国人は「KABOOOOOM・・・ナントイウ響キデショウカ。コレコソ神ノ啓示。アリガトウ、ミスター擬音士。」と涙を流しながら庵を後にした。

また、ある作家からは「この敵はすでに急所を突かれて死んでいるんです。そのことを告げられ、死を認識した瞬間に発する敵の声はどうすればいいでしょう」と聞かれたこともあった。擬音士は依頼主の意図をより細かく聞いたのちに「激しい怒りや自責の念を表現するには『あべし』や『べぼわ』が、自分に起きていることが信じられないときには『ぱぷぅうぇ?』が良いだろう」と告げた。作家は「必要かつ十分にして効果的。人々の意識を根底から揺るがす音だ!」と感動した。

・・・なんていうヤクザな商売どうですか?