フォトリーディングとサヴァン症候群

人間が他の動物たちと大きく違うのは、他の人の体験談などを通じてその人の記憶、経験、意識を自分のものとすることができる能力があるところだといいます。意思伝達のために生まれた言語を、時間的・空間的により広い範囲に伝播させるために文字が生まれ書物になりました。現代に生きる私たちは書物を通じて数百年前の世界に生きていた人の経験を自分のものにすることができます。これは、経験の積み重ねを「進化」という形でDNAに織り込むことでしか子孫に伝えられない他の動物たちにはできないことで、できる限り利用したい能力です。ただ、本はピンからキリまで無数にあり、それを読む時間が限られているというジレンマがあります。人間には約80年しか時間がないのです。そのためにより速く本を読むための技術—速読法—が開発されてきました。

速読法にはいろいろな種類がありますが、その中でもフォトリーディングという方法が最近は有名なようです。達人になると毎秒30ページを読み、その理解率は75%を超えることができるそうです。毎秒30ページというのは一般的なアニメのセル画が表示される毎秒12コマの2.5倍の速度です。どうやら、見たものをただ写真のように記憶していき、情報が必要になったときに記憶から写真を引き出す、ということを行うようです。つまり、本を読んでいる最中には読んだ内容の分析や理解を迂回しておき、読み終わってからじっくりと記憶に残っている情報を処理するみたいなのです。

このことは(自閉症にときたま見られる)サヴァン症候群の人の情報処理法と似ているような気がします。サヴァン症候群とは、知能障害を持ちながらもある特定分野に突出した能力(特に記憶の再現力)を持つ人々のことなんですが、記憶したものを忘れることができないのではないかとか、言語能力の未発達が要因となって写真のように風景を覚えているのではないか、などと言われています。最近の研究では痴呆症患者にも同様の能力が見られる例があるという報告がされているので、この記憶力はもともと全ての人間に備わっている能力なのではないか、とも言われています。

フォトリーディングは魔法のように思えるけれど、もしかしたら訓練すれば誰だってサヴァン症候群の人々が見せるような能力を獲得できるのかもしれません。まだまだ脳は分からないことだらけです。