テープ時代の終焉

Quantegyというビデオテープやオーディオテープを作っていた会社がありました。おそらくプロ向けとしては唯一のテープ製品製造会社でした。過去形なのは、昨年10月に破産してしまったからです。アナログ録音に使われる1/2インチテープの売り上げは、ここ12年間で年間250,000本から年間2,500本にまで減っていました。テープを作るための原材料の値段は上がる反面、作った製品の売り上げは落ちる一方で、最終的にはキャッシュフローが悪化して廃業せざるを得なくなったのです。

プロ・オーディオ業界においてもこれは衝撃でした。S-VHSを使うADATやHi-8を使うDA-38のようなデジタル録音機材のためのテープも入手できなくなるのです。もっとも音楽業界では多くのスタジオにおいて、録音からマスタリングまですべてがハードディスク・レコーディングに置き換わり、一般的な配布メディアもデジタルディスクに置き換わっています。もしアナログを通すとしたらミキシング・コンソール、エフェクト・プロセッサ、それとケーブルくらいでしょう。いまだテープ・エコーやテープ・コンプレッサーを使っている人もいますが、コンピュータ内部の演算だけですべての処理が実現できる技術は整っていますし、多くのスタジオではその技術がすでに導入されています。音質の問題さえクリアすれば、コンピュータで全てが処理できる時代ももうすぐやってくるでしょう。アナログ電気信号で処理した音を聞いたことの無い世代が多数を占めれば、もしアナログよりデジタルの方が音質が劣ったとしても、それを主張する人はいなくなるのです。

デジタルマイクやデジタルスピーカーも開発されています。近い将来、アナログなのは楽器や声から録音するまで、そしてスピーカーやヘッドホンから耳に入るまでの音だけになるでしょう。つまり空気中を伝播する音だけがアナログで、あとはすべてデジタル信号になるのです。

世界中の倉庫からテープの在庫が消え、それを皮切りにして録音音楽がデジタルでしか作れない時代がやってきます。準備はいいですか?