学問分野による発表方法の違い

IMG_3410.jpgCIM05の最終日でした。学際学会だったので、普段は見に行くことのないような違った学問分野の発表が見られたのがとても良かったです。特に面白かったのが、自然科学と人文科学のプレゼンテーション方法の違い。

自然科学は科学(サイエンス)と工学(エンジニアリング)のふたつに大きく分かれていますが、どちらも簡潔な表記とたくさんの図解、そして自分の成果がどのようにみんなの役に立つか、そういう話をします。人文科学、今回は音楽学(歴史・評論・作曲理論)でしたが、は反対にあらかじめ用意してきた原稿を読み上げるスタイルが多かったです。文章で表現する物が多いので図解するわけにもいかないようですし、一言でも言い間違えると論理が成り立たない場合もあるようで、しっかりと原稿通りに発表していました。

ただ、僕のような科学分野にいる人間から見ると、人文の人たちはすごく悠長にやっているような気がします。科学であれば「前の世代がこう言ったが自分の行った実験や証明では反対の結論が出た」という明確な結果がありますが、人文の世界では「前の世代の研究者がこう言ったけど自分はこう思う」ということしか提示できないからです。科学では「世界的権威」がなんと言おうと反例を出せば理論が崩せますが、人文の世界ではその権威(とその崇拝者たち)がいなくならない限り理論を覆すのは難しいようです。そのためか分かりませんが、「マーラー交響曲第三番の第二楽章の296〜302小節目に出てくるフルートに関して」みたいな、ミニチュア重箱の隅をつつくような発表までありました。

音楽の世界は人文科学と自然科学に加えて演奏理論が入ってきます。演奏に関する発表は、いかに優れた演奏方法を次世代に継承するか、というのがメインテーマになっているようで、言語学的に解析したり信号処理で解析したり、とても興味深かったです。ただ、工学や通信では数十年前に使われなくなったような信号処理手法を堂々と使っていたりしていたのが残念でした。たとえば、「なんとこの研究では『特異値分解』という理論を使っているのです!」とか「楽曲の分析に時間平均をしたスペクトログラムを使いました」なんて言っているのですが、工学でも統計でも特異値分解は普通に使うし、スペクトログラムは音声解析ではあまり使い物にならないということで別の手法がたくさん作られています。分野どうしの横方向のつながりが薄いせいで研究の発展が遅れているような印象を受けました。もったいない。