抱負?

言葉は感情を表すのには十分ではありません。自分が考えたことをなんとかかんとか形にすることはできるかもしれませんが、自分が感じたことを100%言葉にできる人に会ったことがありません。そもそも言葉は他人に自分の思いを伝えるための優れた道具なのですが、感じたことを100%そのまま他の人に伝えることは未だにできていないように思います。使いこなすのがすごく難しい道具なんです。

昔から文学者たちは人生をかけて、言葉という道具を使って、感じたことを他の人に伝えようとしてきました。どんなに偉大な文学者でさえ、感じたことの1/3でも伝われば大成功だと思います。そのためにその時代にあったいろいろな表現方法が生まれ、時代を超越した感情の伝達ができる人の作品のみが今も読み継がれることになっているのです。

音楽家もそうですね。言葉という地域や民族に限定されてしまう道具ではなく、音そのものを使って感情を伝える職業です。表現がより抽象的になってしまいますが、その表現を受け取ることのできる人も増えます。料理人、陶芸家、建築家など、芸術家だと言われることのある職業に就いている人々はみんな自分の感情や思いをどうにかして自分の得意な方法で相手に伝えようとしています。

僕のやっている研究は、文学者が「自分の感性と知識を使って感情を表現しようとする」という部分にすごく似ているな、と思いました。音を聴いたときの感覚を数値にしたい、その数値を他の人に伝えることで同じ感覚を共有して欲しい、そういう研究をしているので。一生かかっても100%の感情を伝える方法を発見することはできないでしょう。僕くらいの人間でできることなんだったら、ダヴィンチやシェークスピアがすでにやってるはずです。でも、もしかしたら僕なりの新しい表現方法・伝達手法を提供するくらいはできるかもしれません。乞うご期待。